親族間売買って何だろう?
親族間売買とは、個人間売買のパターンの一つに該当しますが、とりわけ、父や母、祖母祖父・兄弟などの親族が有している不動産を、その子供や孫、他の兄弟、いとこ、甥姪などに売却することです。
「同じ売るなら、全く知らない第三者に売るより、この不動産のヒストリー(先祖代々の歴史)や本当の価値を分かってくれる親族(子供や孫、親せきの人)に売ろう。」「相続で受け継いだ共有持分をシンプルにしよう。」などという考え方に基づくものです。
中には「親族(子や孫など)になるべく安く買ってもらい、経済的な負担を減らしてあげよう。」または、「売主である父親が経済的に困っているので、息子としてなるべく高く買ってあげよう。」などという、親族ならではの温情的な考え方に基づくものもあるかもしれません。
しかし、親族間売買は、当事者にとってのメリットだけではなく、想定外の注意点が多々ありますので、それらを総合的に把握したうえで、「やはり親族間売買という選択肢しかない」というときに、判断したほうが良いでしょう。
特に「低額譲渡やみなし贈与に伴う追徴課税のリスク」「(法定相続で恩恵を受けるはずであった)兄弟間の感情的問題。」「親族間売買に対する金融機関の考え方」の3点は、必ず確認しておいてください。
次に、親族間売買の代表的なケースを挙げてみます。
(親族間売買のケース1) 親子間の売買 親所有の不動産を子供に売却し、その売却代金を親自身の老後資金や借金の返済などにあてる。
例えば、高齢で年金も少ない父親が、老人施設に入居したいので、自己資金があり、属性もよい(=銀行からの信用が得られやすい)自分の子供に不動産を売って、その資金を自分の施設入居費や老後資金に充てる、というケースです。または、親が事業などで多額の負債を負っており、相続人や連帯保証人に迷惑をかけないよう、生前に子供に売却して負債(借金)を完全にゼロにする、というケースです。
この場合は、相続税や贈与税逃れといった目的ではなく、「売主にとって本当に必要な資金に使用する」「負債を返済する」という、正当な目的がある場合が多いです。
金銭的な事だけを考えれば「親族以外の第三者に売却したほうが高く売れるのではないか?」という考え方もあります。
しかし、あえて親族間売買を行う理由は、その不動産が先祖代々受け継がれた大切な土地で、子や孫の代まで引き継ぎたい、という売主の不動産に対する想いがあります。「愛着を持って大切にしてきたこの土地(建物)を、そのヒストリーを知らない第三者に好き勝手に使われたくない。これはお金の問題ではない。」という、強い想いがあるからです。
それ以外にも、親が生前に自分の趣味のために使ったり、老後の生活資金に充てたり、孫の教育資金贈与や住宅資金贈与といった、優遇措置が得られる別の資金に振り替えるなど、生前に不動産を売ったほうが自分としては何かとメリットがある、と判断した場合、親族間売買という選択肢が得られます。
(親族間売買のケース2) 兄弟間の持分売買(=共有持分の買いまとめ) 共有持分をシンプルにする。
例えば、相続で子供ら(兄弟・姉妹等)が、遺産分割協議の結果、法定相続分の通り共有名義で不動産を譲り受けたものの、共有者の一人がどうしても生活資金が必要になってしまい、別の共有者が持分を購入し、売買代金を支払うというケースがあります。
そもそも不動産は、大規模修繕や売却処分の際、共有者が全員の同意が必要なため、実務上非常に面倒臭い、という側面があります。また、共有者の一人が被相続人となり、その相続人が法定相続分通り名義を受けたら、共有者が「ねずみ算」的に増えてしまい、将来的に売却や管理行為(大規模修繕等)をするときの手間が倍増する、というデメリットがあります。それゆえ、ある共有者が他の共有者の持分を買い取ることは、双方にとってメリットがあるとも言えます。つまり、共有者が少ないか、または単独持分の状態であれば、売買や大規模修繕の際の意思決定が早く進むため、売買などにおける取引関係者にご迷惑をかけることが少なくなります。
「最初から特定の相続人(Aさん)だけに、その不動産の遺産分割すれば良かったんじゃないの?」という考え方もありますが、相続開始時は、皆がよく分からないままに、「とりあえず法定相続分にしておこう」ということで相続人の間で何となく遺産分割協議を進めてしまい、または、遺言書にそう書いてあったからその通りにした、というケースがあったりするものです。
または、最初から「代償分割」と言って、いったんAさんが不動産を1分の1(100%)の持分で相続し、それをすぐに売却して、売却代金を、法定相続分通りに各相続人に分配する、という方法もあったはずです。(但し、最初からそのように遺産分割協議を行っておく必要があります。)
いずれにせよ、最初は共有名義で良かれと思っても、その後の様々な環境変化に伴い、共有者それぞれに資金が必要になることがあります。そもそも、共有名義の不動産を持っていても、多くの場合、自分はそれを実際に使用できない状態であり、いざ処分をしようと思っても、大変な不自由を強いられてしまいます。それであれば、自分の持分を他の共有者(兄弟等)に売却することで、実際に使用できる資産(現金)に変えることができ、他の共有者も、その後の処分や管理がしやすくなる、という多大なメリットを得ることができます。
親族間売買のデメリット(注意点)
(注意点その1)
「低額譲渡」を行いがちであり、「みなし贈与」と認定されるリスクが高い
「自分の子供に売るんだから、なるべく安く売ってあげよう。(温情)」
「市場価格の60%くらいならギリギリOKでしょう。(思い込み)」
「いくらでもいいから、不動産さえ手放せば相続税評価が下がるので、相続税の支払いが減るはずだ。(相続税法等の無知)」
本当にそれで良いのでしょうか?
親族間売買は、とかく「温情」が入ってしまい、売買というより、贈与の側面が出てしまいがちです。税務署はそのような親族間の温情心理をしっかり把握しているため、親族間売買を厳しくチェックしていると言われています。
低額譲渡とは、市場価格(取引が成立する通常の価格)より安く売ることです。その市場価格との差額は「みなし贈与」とみなされ、その差額に贈与税がかかってしまいます。(低額譲渡の規定は親族間に限らず、誰に対しても適用されます。)
せっかく親族に安く売ったのに、後から税務調査が入って追徴課税され、安く売った意味が全くなかった、などという結果になってしまったら、親族である売主買主共に、本当に残念な話です。
それを回避するためには、親族間だからといって温情をはさむのではなく、きちんと不動産会社を入れて「価格査定書」を作ってもらい、それに基づいて適切な市場価格を決定し、それに基づいて売買すべき、ということになります。個人間(親族間)売買専門の不動産業者に依頼すれば、価格査定書は無料で作ってもらうことができます。
なお、不動産鑑定士という国家資格者に依頼する方法もあります。かなり緻密に評価を出すので、査定金額の客観性はある程度保証されますが、通常、数万円~数十万円の費用がかかります。
親族間だから安く売買できる、という思いこみは不適切ですので、絶対に無くしましょう!
それでは、よりお値打ちに売却する場合の最低限度はどれくらいなのでしょうか?
この点については、正しい答えはありません。しかし、paret(株式会社大日不動産)の顧問税理士によれば、土地で言えば相続税路線価くらい、路線価がなければ、やむを得ず固定資産税評価額が基準になるのではないか、との見解でした。また、とある不動産鑑定士によれば、親族間売買でも兄弟(姉妹)間やいとこ間、甥姪の間であれば、より他人に近い関係性となるので、いわば第三者との売買に近くなり、双方の自由意思で価格を決めても問題はないのではないか?、との見解でした。
但し、大都市圏の高級住宅地などで、市場価格が路線価より著しく高いエリアの場合、または地価が上昇中のエリアは、路線価自体が市場価格と比べて著しく低額になるというケースもありうることから、具体的な見通しは、取引の都度「税理士」にしっかり確認するべきです。(paretは税理士事務所ではないため、税務相談を行ったり、税務上の具体的な専門意見を述べることはできません。)
(注意点その2)
売主の相続人予定者(法定相続人)の期待利益を損ね、感情を害する。
売主である父(配偶者は死去)に3人の子供ABCが居て、普段から交流があり、最も信頼しているBに、AとCに内緒で、地価が上昇しているエリアの土地を売買で譲った、というケースがあった場合、一体どんなことが起こるでしょうか?
Bは地価上昇の恩恵を受けられるので喜ぶかもしれませんが、AとCには何の利益もありません。もし、Bに売らずにそのまま相続財産となったら、1/3ずつではあるものの、地価上昇の利益を得られたかもしれません。また、Aはたまたま事業を営んでいたので、遺産分割協議の結果、Aの土地を相続で得た場合、事業の発展に役立てた、ということもあるかもしれません。
つまり、AやCにっとっては、本来得られるべきであった期待利益を喪失する結果となるのです。
したがって、親の生前にその売買の事実が発覚した場合、3人の子の間で感情的なトラブルが起こることが容易に想定されます。また、親に対しても、「AやBは同じ子供なのに、なぜ軽んじられているのか?」という妬みや恨みを抱くきっかけにもなります。
したがって、(親などの)被相続人予定者の不動産を、(その親族である)法定相続人予定者が売買で購入する際は、その法定相続人予定者がすべて将来の利害関係者になることから、必ず事前に売買の同意を得ておくべきです。
(注意点その3)
金融機関は、親族間売買を「目的外利用や低額譲渡のリスクが高い取引」とみなし、融資にとても消極的である。
親族間売買の買主が、自己資金では購入できないので、住宅ローンを使用する場合を見てみましょう。
年金暮らしである高齢の親が住んでいる自宅を、老人ホーム入居の費用に充てるために、同居の息子A(自営業20年目で経営状態良好)に売却したい、というケースは、よくありがちな親族間売買の目的といえます。息子Aには2人の弟がいますが、いずれもマイホームをすでに購入していて、親の自宅を活用する予定はありません。
息子Aには十分な自己資金がなく、住宅ローンを組まなければ買えません。また、住宅資金贈与を受けるほど親の預金もありません。
このような場合、銀行はAに快く融資をしてくれるでしょうか?
答えはNOであり、窓口であっけなく断られるケースが多いと言われています。
<理由その1 資金迂回&目的外利用の可能性>
(1)Aが低金利(例えば変動金利0.9%)で2,000万円の融資を受けて、売買代金2,000万円を父親に払った。そして、父親は預金が一挙に増えた。
(2)元々、老人施設に入る予定であったが急遽変更し、自宅介護を選択した。父親は、息子Aの自営業の発展のために、運転資金として2,000万円貸与した。(親子間の金銭消費貸借契約 金利は任意で1.0%くらいとする。)
(3)息子はその資金を元手に事業を拡大させたが、うまく行かず、投資資金全額を回収できなかった。
このようになってしまった場合、銀行の住宅ローン融資は、廻り回ってA自身の「事業融資」に使われた(しかも回収不能)ということとなり、融資をした本来の目的と著しく異なってしまいます。
通常、事業融資は、よほどの優良企業でない限り、金利が0.9%などということはなく、中小零細の場合2.0%やら3%やら、住宅ローンの変動金利より高額であり、経費としても負担が大きくなります。それなら、親子であることを良いことに、息子に住宅ローンとして資金を借入させて不動産という資産を移動し、さらに、親子の温情に基づいて資金をこっそり迂回させ、息子Aの事業資金に充当する、ということが可能となるのです。
銀行としては、そこまで資金の流れを追うことが難しく、いわば「銀行が自らリスクを作って放置する」という結果となります。しかし、事業資金の融資は、本来、その事業がうまく行って、回収する可能性が高いかどうかということを、審査する金融機関などが事業計画書などを見て、慎重に判断します。それが、父親の温情融資ということであれば、事業計画や回収可能性などは、ほとんどザル(=緩々審査)に等しい場合も出てきます。
資金を迂回させて事業がうまく行かなかった場合、資金を融資した父親も息子も、大変な苦境に陥ることとなります。
<理由その2 低額譲渡によるみなし贈与と追徴課税を受けるリスク>
そのような、親族の温情ゆえの「資金迂回&目的外利用」「低額譲渡」が有り得る世界だからこそ、親族間売買の融資は「リスクが高い」とみなされ、融資に消極的となるわけです。
先にも述べたように、親族間売買は「低額譲渡」が行われるリスクが高く、もし、息子がみなし贈与で追徴課税された場合、融資を受けた借主(息子)は資金ショートを起こす可能性があります。そのようなことは、融資をする銀行としては全く望ましくありませんし、むしろ金融機関が、脱法行為に間接的に加担した、とも言えてしまいます。
それでも、金融機関によっては融資を応諾する場合もあります。よほど、同じ銀行の別の融資取引で信用を得ているか、または、融資金が迂回されたり、決して目的外利用されないという客観的事実が証明できたり、または、何らかのリスクが生じても、返済をきちんと遂行できるような高い属性(豊富な自己資金、勤続年数や勤務先が上場企業や公務員など)があれば、資金的にリスクを回避できる可能性が高いので、親族間売買であっても、審査の結果OKとなる可能性があります。
なお、地元の信用金庫や信用組合、JAであれば、中小零細企業や個人事業主、その他、経済的基盤が弱い庶民の立場に立って動いてくれることが多いと言われています。この点では、大手都銀や地方銀行よりも、門戸が開かれている可能性は高いかもしれません。また、ノンバンク(セゾンなど)は銀行ではありませんが、4%~6%くらい(2023年8月時点)の金利で「親族間売買専用ローン」という商品を用意しています。リスクが高い分、金利も高いということですね。
但し、いかなる金融機関であっても、リスクのある融資は当然ながら避けますので、あくまでも個別にご相談されたうえで、融資の可否をそれぞれ仰ぐべきです。
(注意点その4)
第三者と売買するときには適用できる様々な税法上の優遇措置が、同居中や同一生計の親族間売買の場合は、適用されない。
親族間売買は、先祖代々の不動産が、本来は相続によるものが売買に代わったということであり、形はどうであれ、同様に子孫等に受け継がれていく、ということになります。また、登記名義や資産内容が変わっただけで、資産的な恩恵は受け続けることができるという意味では、わざわざ優遇措置を与える必要性が無いではないか?という見方ができます。
そういう観点から、次の3つの親族間売買においては、以下の優遇措置は適用除外となります。
- 親子間、夫婦間、同一生計の親族間の売買
- 家屋の売却後その家屋で同居する親族との売買
- 内縁関係にある人、特殊な関係のある法人などとの売買
これらの売買で適用できない特例は、次のとおりです。
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
- 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
- 居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
- 特定の居住用財産の買換えの特例
- マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
このほか、「住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税)」は、同一生計でない親族間の売買では適用できますが、同一生計である兄弟間や親子間、夫婦間の売買では、適用できません。
このような規定は、マイホーム取得ための税金読本でも細かくしか書いてありませんし、分かりにくい内容でもありますので、実際に親族間売買を行う、となった際には、これらの規定をそれぞれ確認して、該当するかしないかを一つ一つ確認する必要があります。
特に、住宅ローン控除は重要なポイントで、同居している親から子への売買は適用除外ですが、同居していない親子や兄弟同士、いとこ同士であれば適用可能(但し、購入後に同居予定の場合は同一生計とみなされ、適用されない。詳細は税理士に要確認)ということです。
また、親が相続で受け継いだ不動産を売買で購入した場合で、かつ譲渡所得が3,000万円以下の特別控除は、同居する(または同居予定の)親子や夫婦、内縁関係の相手などは適用除外、ということになります。
(注意点その5)
相続税対策が必要と思われる方の場合(ある程度の資産家の場合)は、メリット・デメリットが一概に述べられない。
相続税対策が必要になると思われる方は、保有資産や親族構成に応じた個別の対応が必要です。顧問税理士と相談しながら、親族間売買を行うことのメリット・デメリットを慎重に吟味して対応すべきです。大日不動産では、具体的な税務相談についてはお受けできませんので、あらかじめ税理士のご相談を経た方についてのみ、親族間売買を対応させて頂きます。但し、最初の相談時に顧問先がいらっしゃらない場合は、お客様に適した税理士ご紹介できますので、その際は遠慮なくお申し付けください。